山口貝類研究談話会会誌 ユリヤガイ, 6(1). November 1998

原著

リシケ市長と日本の海産貝類 
カール・エミル・リシケの伝記的文献解題および日本における海産軟体動物学小史と文献解題

ルド・フォン=コーセル

要約 日本の海産軟体動物学の開拓者の一人,カール・エミル・リシケの生涯が,日本における海産軟体動物学小史及び日本国外 (主にヨーロッパ) の軟体動物学との関連とともに,素描される。広範な文献解題も供する。

キーワード: カール・エミル・リシケ,文献解題,軟体動物学史,伝記,日本


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山口県下関市吉母海水浴場におけるルリガイ(新生腹足目)の漂着

上野 俊士郎・野田 幹雄・網尾 勝

要約 1995年8月20日,下関市吉母海水浴場の汀線付近に生存個体を含んだ35個体のルリガイが多数のギンカクラゲとともに漂着した。これらのルリガイは殻高が 18.6〜34.9 mm,殻径が 15.4〜31.8 mm の範囲にあり,比較的大型個体であった。5個体のルリガイが浮嚢を有し,7個の浮嚢が貝殻と離れて打ち上げられていた。それぞれの浮嚢には300個余りの卵嚢が付着していた。浮嚢の先端半分の卵嚢には10〜70個体のベリジャー幼生が存在した。8月の日本の南方海域の表面水温は1949年以来の記録的な高水温で,8月中旬の東シナ海東部の表面水温は30℃を超えて,平年よりも2 ℃程高く,南寄りの風が卓越していた。また,吉母海水浴場の沖合海水の表面温度も29 ℃を上回り,打ち上げ直前の数日間は西風が卓越していた。以上の海洋学的データから今回の漂着は黒潮域から対馬海峡にかけて記録的な高温と長期的な南風により,海表面生活者のルリガイの分布域が対馬海峡まで拡大し,漂着は直前の西風により起きたと判断された。

キーワード: ルリガイ,ギンカクラゲ,対馬海流,黒潮,漂着,水温,風


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寄書

エゾバイ属は東中国海南端域に分布するか?

黒住 耐二

要約 近年,東中国海の尖閣列島付近から,エゾバイ属のクビレバイの生息が報告された。しかし,これまでに東中国海南端域から本属の分布記録はない。また南日本においてエゾバイ属の種は漸深海帯の泥底にのみ生息することが知られており,尖閣列島周辺で本種と同時に得られた種の生息深度及び生息底質からも,この海域にエゾバイ属の種が生息するとは考えにくい。つまり,尖閣列島周辺から記録されたクビレバイは,誤った記録であると考えられる。

キーワード:エゾバイ属,クビレバイ,誤った記録,東中国海


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