山口貝類研究談話会会誌 ユリヤガイ, 8(1). December 2001

原著論文

外来種チャコウラナメクジ(腹足綱:有肺目:コウラナメクジ科)の山口県における分布と成熟度の季節変化

狩野 泰則・福田 宏・吉崎 宏・斎藤 みよ子・保阪 健市・杉村 智幸・伊藤 靖子・藤原 廣治・中村 康博・増野 和幸・伊藤 賢司・登根 邦彦・福田 敏一・三時 輝久・山下 博由・堀 成夫・堀 琴枝・堀 淹祐

要約 山口県の全市町村から得たLehmanniaチャコウラナメクジ属について,分布,形態及び成熟度の季節変化を検討した。解剖学的検討により,県下産の同属標本はすべてLehmannia valentiana (Ferussac, 1822)に同定された。本種は市街地のみならず人家のない海浜や山間部からも採集され,比較的自然度の高い環境にまで広がっていることが確認された。また本種は植物の新鮮な葉を餌とするため農業害虫として被害を与えている可能性が高い。山口県下では,冬から春にかけて孵化し,一年と少しの間生存する。成熟個体は1月〜5月及び9月〜12月の,秋から春にかけてのみ出現し,10月から12月はすべての採集個体が成熟していた。1月から未成熟個体が現れ始め,以後,月を経るごとに成熟個体数の割合は減少した。加齢に従って,皮膚の色が全体に濃くなり,外套および背面の網目模様が顕著となる一方で,縦方向の色帯が薄くなることが確認された。年齢や成熟の度合いと体サイズとは必ずしも相関せず,未成熟個体より小さい老成個体も見出された。

キーワード: チャコウラナメクジ,解剖,形態,分類,生活史,移入種,農業害虫


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ショウジョウウミウシ (腹足綱:タテジマウミウシ上科:ショウジョウウミウシ科) の瀬戸内海及び有明海からの新産地,ならびにインターネットからの日本産ショウジョウウミウシ科の産出記録

溝口 幸一郎

要約 有明海と瀬戸内海においてショウジョウウミウシが初めて採集されたので報告する。この種が有明海や瀬戸内海のような内湾から記録されるのは,初めてのことである。これら2産地のショウジョウウミウシ間には外部形態に異なっている点がいくつか認められた。また,瀬戸内海産個体の歯舌と顎板を観察したところ,かつてリグリア海から本種として報告されたものとは大きく形態が異なっていた。さらに,ショウジョウウミウシ属の産出記録を公開しているホームページをインターネット上で検索し,それらの形態,分類,分布についても考察した。その結果,ショウジョウウミウシ属複数種の新産地が8カ所明らかになり,ほとんど報告例がなかったハナショウジョウウミウシも3カ所で撮影されていたことが明らかになった。三重県では,オニショウジョウウミウシ,もしくは未記載種と思われる同属の1種が撮影されていることがわかった。ショウジョウウミウシは日本海側では角島以南,太平洋側は相模湾から沖縄本島まで生息していると考えられる。

キーワード: ショウジョウウミウシ属,形態,分類,再検討,分布


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絶滅が危惧される二枚貝類ムラサキガイ(ニッコウガイ上科:シオサザナミ科)の山口県周防灘における健在産地の発見,ならびに分類学的考察

本田 治朗・リチャード C. ウィラン・鈴木田 亘平・溝口 幸一郎・福田 宏

要約 Soletellina adamsii (Reeve, 1857) ムラサキガイ (これまで日本の文献ではずっと S. diphos (Linnaeus, 1771) と誤同定されてきた) は,世界野生動物保護基金日本委員会 (WWFJ) のレッドデータブックによって「絶滅寸前」と指定された種である。最近筆者らは,周防灘に面する山口県秋穂町及び阿知須町において本種の棲息を確認した。当該地域の住民の間ではS. boeddinghausi (Lischke, 1870) フジナミとともに食用に採集されている。一部の産地では幼貝も確認されたため,継続的に繁殖しているものと考えられる。これらの産地は,現在の日本に残された本種の貴重な健在産地と認められる。

キーワード: ムラサキガイ,マツガイ,二枚貝綱,ニッコウガイ上科,シオサザナミ科,棲息環境,生物多様性,保全,砂質干潟,秋穂町,阿知須町,瀬戸内海


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短報

山口県産コウラナメクジ科の記録

狩野 泰則

要約 これまでに報告された山口県産コウラナメクジ科の記録は,ほとんどの場合証拠標本がなかったため同定を再確認することが不可能であった。本報告では,増野和幸氏がかつて発表したコウラナメクジ類の記録の基礎となる写真によって再同定を試みるとともに,山口県産同科の記録をまとめた。この結果,山口県からは Limax flavus Linnaeus, 1758 キイロナメクジ, Lehmannia valentiana (Ferussac, 1822) チャコウラナメクジ,Deroceras laeve (Muller, 1774) ノハラナメクジの産出が確認された。これらはすべて外来種である。

キーワード: キイロナメクジ,チャコウラナメクジ,ノハラナメクジ,移入種,再同定,分類


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