軟体動物多様性学会 Molluscan Diversity, 5(1-2). March 2017

原著

沖縄県レッドデータブック ―レッドデータおきなわ― 第2回改訂に伴う稀少貝類棲息実態調査報告―1. 与那国島

久保弘文・福田 宏・早瀬善正・亀田勇一・小澤宏之・上島 励

要約  『沖縄の絶滅のおそれのある野生生物―レッドデータおきなわ―』(RDO)第2回改訂に伴い,沖縄県の島嶼で危機的状況にある貝類の種(主に陸・淡水棲種)の現況把握調査を実施した。本報告では与那国島での調査結果を扱う。合計53種が確認され,そのうち14種が同島固有種と見なされるが,その大半は少数しか確認されず,近年急速に減少したと考えられる。一方,未同定の7種が今回初めて見出された:ティンダハナタクリイロカワザンショウ(新称),ドナンオカチグサ(新称),ヒメベッコウ類似種,サキシマシロヒメベッコウ(新称),マルキビ類似種,ホソスジベッコウ近似種,ヨナグニシロベッコウ。

キーワード:  腹足類,二枚貝類,陸産貝類,淡水産貝類,生物相,生物多様性,絶滅危惧種,保全,固有種,外来種,八重山諸島,南西諸島,琉球列島

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沖縄県レッドデータブック ―レッドデータおきなわ― 第2回改訂に伴う稀少貝類棲息実態調査報告―2. 西表島

久保弘文・西垣孝治・小澤宏之

要約  本報告は,『沖縄の絶滅のおそれのある野生生物―レッドデータおきなわ―』(RDO)第2回改訂に伴う稀少貝類現況把握調査の第2報であり,西表島での結果を扱った。同島のマングローブ湿地においてはクビキレガイ上科の固有種や稀少種(カトゥラプシキシタダミ,アシヒダツボ,エレガントカドカドなど)の新産地が見出された。一方で,移入種ジャワザンショウが同島から初めて確認された。浦内川河口では固有種トゥドゥマリハマグリの現況調査を行ったが,確認された生貝はわずか1個体にとどまった。船浦ではウラジロマスホの生貝数個体が見られたが,棲息密度は2010年の調査時と比べて半減していた。

キーワード: 腹足類,二枚貝類,マングローブ湿地,干潟,生物相,生物多様性,絶滅危惧種,保全,固有種,外来種,八重山諸島,南西諸島,琉球列島

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沖縄県レッドデータブック ―レッドデータおきなわ― 第2回改訂に伴う稀少貝類棲息実態調査報告―3. 北大東島・南大東島

久保弘文・福田 宏・早瀬善正・亀田勇一・黒住耐二・上島 励

要約 本報告は,『沖縄の絶滅のおそれのある野生生物―レッドデータおきなわ―』(RDO)第2回改訂に伴う稀少貝類現況把握調査の第3報であり,大東諸島の北大東島・南大東島における結果を扱った。合計42種が確認され,そのうち29種が在来種,9種1亜種が大東諸島固有種の可能性がある。固有種のうちアツマイマイ類は近年減少傾向が著しく,絶滅の危機にある。ダイトウノミギセルは遂に生貝が発見されず,既に絶滅した可能性もある。一方で,ウフアガリクリイロカワザンショウ(新称),カイグンボウクビキレの2 種は今回初めて同諸島から見出された。

キーワード: 腹足類,陸産貝類,淡水産貝類,生物相,生物多様性,絶滅危惧種,保全,固有種,外来種,大東諸島,南西諸島,琉球列島

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日本産クビキレガイ科(新生腹足類: クビキレガイ上科) の再検討に向けて

福田 宏・亀田勇一・平野尚浩・久保弘文・早瀬善正・齊藤 匠

要約 日本産クビキレガイ科の種の再検討を,殻と蓋の形態に基づいて予察的に行った結果,9種が見出された: クビキレガイ,オカクビキレ,アマミクビキレ,アソブイトクビキレ(新称),カガヨイクビキレ,キザハシクビキレ,ロウタキクビキレ(新称),ヤマトクビキレ,カイグンボウクビキレ(新称)。それぞれの種は殻の大きさ,後成層の縦肋数,繃帯の有無などで識別可能である。またこれら9種は胎殻の縦肋や蓋の石灰化の有無によって2つの種群に分けられる。ヤマトクビキレは北海道南部〜九州の温帯域に分布するが,他の8種は亜熱帯域(特に南西諸島)に産する。クビキレガイを除く全種は近年の棲息環境の破壊によって絶滅が危惧される。オカクビキレ,アソブイトクビキレ,カガヨイクビキレ,キザハシクビキレ,ロウタキクビキレ,カイグンボウクビキレはいずれも1〜数箇所しか産地が知られておらず,極めて狭い範囲に産出が限定される。

キーワード: クビキレガイ属,腹足綱,分類,生物多様性保全,絶滅危惧種,飛沫帯,陸産貝類

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石垣島および西表島におけるヒメヒラマキミズマイマイ(腹足綱:ヒラマキガイ科) の発見

齊藤 匠・平野尚浩・内田翔太・山崎大志

要約 沖縄県石垣島,西表島のそれぞれ1地点ずつからヒメヒラマキミズマイマイが発見された。従来,本種は本州,四国,九州,および東京都島嶼部から生貝の記録が知られていた種であり,今回の採集地点は従来の記録の西限及び南限を更新する。加えて,本種の生貝がこれまでに南西諸島で発見された例はなく,生物地理学上も特筆に値する。

キーワード: 絶滅危惧種,水棲類,沖縄県,南西諸島

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南西諸島から新たに記録されたトガリオカクチキレ科(腹足綱:アフリカマイマイ上科)

平野尚浩・内田翔太・大谷ジャーメンウィリアム・齊藤 匠・山崎大志・和田慎一郎

要約 沖縄県宮古島・西表島においてトガリオカクチキレ科の一種を確認した。従来,この科の種は日本国内においては小笠原諸島のみから知られており,南西諸島における記録は初めてである。

キーワード: 外来種,陸産貝類,生物多様性保全,宮古島,西表島,沖縄県,琉球列島

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沖縄県大宜味村のオキナワテラマチベッコウ(ベッコウマイマイ科) の繁殖と成長

早瀬善正

要約 日本国内の陸産貝類の交尾・産卵期など繁殖,孵化,成長,寿命などに関する生態学的な知見は,キセルガイ科などごく一部の種を除き,明らかにされていない。著者は,沖縄島北部大宜味村ネクマチヂ岳産の未記載種オキナワテラマチベッコウを室内で飼育し成長させたところ,2016年2月から7月にかけて単独個体で自家受精と考えられる産卵を繰り返した。卵の多くは孵化し,最大5 mm程度の幼貝となったものの,8月下旬までに全て死亡した。本種の孵化の記録と孵化後の個体の成長記録を示すとともに,これまでに採取された標本の大きさなどから成長過程を推定し,本種の生活史の解明を試みた。

キーワード: 陸産貝類,腹足類,自家受精,産卵,孵化,生活史,絶滅危惧種,ネクマチヂ岳,沖縄島

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シュリマイマイ類(腹足綱:ナンバンマイマイ科) の分布と国内移入状況

亀田勇一

要約 シュリマイマイは沖縄諸島周辺(沖永良部島〜久米島)が原産地と考えられる地上性のマイマイで,小笠原諸島や与那国島など明らかに人為的移入と考えられる棲息地が近年次々と報告されている。しかしながらシュリマイマイには現在の殻分類では区別できない隠蔽種が存在することも示唆されており,移入個体群が実際にどの種にあたるかについては把握が遅れている。標本の検討から,シュリマイマイとその亜種は,形態的に区別可能な少なくとも3種に再編すべきと考えられる。このうちの2種は沖縄島などに広く分布しシュリマイマイとミヤコマイマイの名がそれぞれ該当する。残る1種は慶良間列島と渡名喜島に固有な未記載種である可能性が高く,本稿でトナキマイマイと新称する。自然分布域の外では小笠原諸島父島・伊平屋島・南大東島・宮古島に移入されているのはミヤコマイマイで,シュリマイマイのみが移入されているのは北大東島だけであった。八丈島ではシュリマイマイとオオシママイマイが同所で採集されているほか,与那国島ではかつてミヤコマイマイが移入されて蔓延っていたものの,現在では大半がシュリマイマイに置き換わっている可能性が高い。自然分布域内での人為分散も起こっているであろうことを考慮すれば,シュリマイマイ類は相当な範囲で近縁種同士のせめぎ合いを生じていることが推測される。

キーワード: オオシママイマイ,シュリマイマイ,トナキマイマイ,ミヤコマイマイ,国内外来種,陸産貝類,南西諸島

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西表島で確認されたヘゴノメミミガイ(真有肺目:オカミミガイ科)

齊藤 匠・平野尚浩・内田翔太・山崎大志

要約 筆者らは西表島のマングローブ湿地における調査でヘゴノメミミガイの生貝2個体を確認した。従来,本種は日本国内においては石垣島のみから知られており,西表島における本種の正式な記録は初であると考えられるため,発見時の状況等と共に報告する。

キーワード: 絶滅危惧種,生物多様性保全,マングローブ,塩性湿地,沖縄県

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沖縄県渡名喜島の非海産貝類相

福田 宏・青柳 克・亀田勇一

要約 琉球列島の中ほどに位置する渡名喜島は有人島であり,アクセスが困難なわけではないにも関わらず非海産貝類相はほとんど知られていなかった。文献記録と筆者らの調査結果に基づいて情報をまとめたところ,腹足類45種(陸産24種・飛沫帯産13種・淡水産8種)と淡水産二枚貝類1種が記録された。従来,同島の非海産貝類は多様性が低く固有種も存在しないと信じられてきたが,未記載種トナキマイマイはこの島および慶良間諸島の固有種である可能性が高い。また絶滅危惧種も7種(ヒラセアツブタガイ,マルタニシ,ヨシカワニナ,アマミクビキレ,ウロコケマイマイ,トナキマイマイ,オキナワドブシジミ)が記録された。一方,周辺他島では普通に見られる種(リュウキュウゴマオカタニシ,オキナワヤマタニシ,オキナワベッコウなど)がこの島では極めて狭い範囲に限定されており,これは1887年ごろなされた山の大規模な焼払いに起因すると考えられる。この島における近年の陸産貝類の減少と研究例の乏しさを巡る特異な歴史も併せて回顧し,そのどちらもが,この島に際立って多く見られる毒蛇ハブへの人々の恐怖が原因となって生じたことと推測された。

キーワード: 陸産貝類,淡水産貝類,腹足類,二枚貝類,トナキマイマイ,ハブ,森林破壊,生物多様性保全,自然史,琉球列島

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