軟体動物多様性学会 Molluscan Diversity, 6(1). July 2021

原著

北海道沿岸域における潮間帯性カサガイ類相

中山 凌・中野智之

要約  北海道沿岸の潮間帯を網羅的に調査し,19地点からカサガイ類15種を採集した。これまでの文献情報と本調査の結果を合わせて精査したところ,北海道における潮間帯性カサガイ類の分布パターンは,道南型(温帯性種: ヨメガカサ,ベッコウガサ,サクラアオガイ,アオガイ,コウダカアオガイ),汎道型(汎温帯性種: カモガイ,コモレビコガモガイ,オボロヅキコガモガイ,クモリアオガイ; 冷温帯性種: ミゾレコガモガイ,カスミアオガイ),道東型(亜寒帯性種: シロガイ,サラサシロガイ)の3つに大別されることが判明した。また,ミゾレコガモガイ,サクラアオガイについては北限記録が更新された。シロガイ,コモレビコガモガイ,ミゾレコガモガイ,サクラアオガイ,ユキノカサガイについては,岩礁や転石下以外にも,他の貝類の貝殻上からも発見された。これらの他の貝類上で発見されたカサガイ類が,動物体表性カサガイ類であるかどうかについて検討したうえで,カサガイ類における他の生物の利用について議論した。

キーワード:  生物地理,動物体表性カサガイ

目次へ


クボガイ(古腹足類:ニシキウズ目:クボガイ科)の有効名

福田 宏・山崎大志

要約 

要約 クボガイの学名は近年一貫して Chlorostoma lischkei Tapparone-Canefri, 1874 とされてきた。しかし,しばしば同種の亜種と見なされてきた C. rugatum Gould, 1861 シワクボガイのタイプ標本はクボガイと区別できないため,より古参である後者がクボガイの有効名となる。Chlorostoma Swainson, 1840 は Tegula Lesson, 1832 の異名であるので,クボガイの学名は Tegula rugata (Gould, 1861) とするのが妥当である。C. argyrostomum var. basiliratum Pilsbry, 1901 ニセクボガイおよび C. r. sublaevis Pilsbry, 1904 エゾクボガイも T. rugata の新参異名である。

キーワード: 異名,エゾクボガイ,学名,シワクボガイ,ニシキウズ上科,ニセクボガイ,バテイラ科,腹足綱,命名法

目次へ


マルタニシの「自動脱殻」

中野智之・古川邦之・芳賀拓真・福田 宏

要約 水槽内で飼育していたマルタニシが生きたままひとりでに脱殻した。その状況を報告するとともに,これまでに報告された腹足類の自動脱殻の事例を,未報告の情報と併せて紹介し,その原因や意義について考察する。

キーワード: 異常行動,肉抜き,腹足類,巻貝類

目次へ


西表島浦内川河口から採集されたオリイレヨフバイ科(新腹足目:エゾバイ上科)の2種:クリイロムシロおよびカタムシロの新産地

西垣孝治・八木洋史

要約 西表島浦内川の河口マングローブ域において,西表島初記録のクリイロムシロと沖縄県初記録のカタムシロが採集された。両種の殻の形態や確認地点の環境を報告するとともに,先行論文等で発表されている両種の産地を整理した。

キーワード: 沖縄県,南西諸島,マングローブ,八重山諸島

目次へ


韓国済州島におけるスナガイ(腹足綱:スナガイ科)の発見

木村一貴・千葉 聡

要約 韓国済州市エウォルのクァクチ海水浴場において,スナガイの個体群が発見された。これは済州島における本種の初記録である。

キーワード: 新記録,真有肺類,分布域,陸産貝類

目次へ


石川県白山で確認されたココロマイマイ(真有肺類:ナンバンマイマイ科)および飼育下での産卵と孵化

澤田直人

要約 Satsuma cardiostoma (Kobelt, 1879) ココロマイマイは兵庫県から富山県までの主に日本海側地域に分布し,石川県ではこれまでに6か所で記録されている。今回,タイプ産地と推定されている白山において2例目となる本種の産出が確認された。室内飼育下で10月に2回の産卵(計17個)を確認した。卵は長径約3.4 mmの白色楕円形で,産卵から43日後に2個体の稚貝が孵化した。稚貝の殻径は3.8 mmで,薄く黄褐色半透明,軟体の頭部−腹足は淡黄白色であった。

キーワード: 絶滅危惧種,腹足類,陸産貝類

目次へ


最北のタイワンホトトギス(二枚貝綱:イガイ科)―山口県萩市での採集記録

福田 宏・岩崎敬二

要約 タイワンホトトギスは従来,台湾以南の熱帯インド−西太平洋から知られていたイガイ科の汽水棲種で,日本では近年奄美大島と四国南部等で産出が確認されていた。この種を日本海沿岸の山口県萩市から1974・2004年に採集された標本に基づいて記録する。これは本種の世界最北の産地であるとともに,日本最古の日付を持つ記録である。萩市での本種の産出は恐らく,船舶による木材運搬やバラスト水による移入,もしくは温暖化に伴う海水温上昇によって生じたと推測される。

キーワード: イガイ目,移入種,温暖化,新分布記録,スキゲヒバリ属,生物汚損,日本海,バラスト水,付着生物,分類

目次へ


ガンヅキ(二枚貝綱:ウロコガイ科)の岡山県笠岡湾における記録

佐藤大義

要約 従来,瀬戸内海に面した3産地のみから知られ,メナシピンノの体表に付着する希少な二枚貝類ガンヅキが,岡山県笠岡湾でホストとともに見出された。これは岡山県での本種の信頼できる産出記録としては初めてである。

キーワード: 移入,ウロコガイ上科,ガンヅキ科,共生,新産地,生息環境,内湾,干潟,保全,メナシピンノ

目次へ