ミジンコはツボカビがお好き!?
〜食物網におけるツボカビの生態的役割を解明〜

2007年4月24日

「ツボカビはミジンコにとって良い餌である」という東邦大学理学部生命圏環境科学科 鏡味麻衣子講師の論文がProceedings of The Royal Society of London B: Biological Sciences(英国)に受理され、4月18日の同誌電子版に掲載されました。
 カエルに寄生するツボカビ (Batrachochytrium dendrobatidis) は、カエルの激減・絶滅を招いていることで注目され、「ツボカビ=悪者」という印象が持たれています。しかし、食物網(物質循環)の観点からすると、ツボカビは必ずしも悪者ではなく、生態的に与えられた役割があるのです。
 ツボカビはカエルだけでなく、プランクトンなどにも寄生し、自然界に広く分布します。生活史の一部を遊走子(胞子のようなもの)として、水中を泳いで過ごします。この論文は、その遊走子をミジンコが餌にしていること、更にはツボカビの中に豊富に含まれるコレステロールがミジンコの成長を促進していることを明らかにし、食物網におけるツボカビの生態的位置づけを確定しました。
 今回の論文で用いられたツボカビ (Zygorhizidium planktonicum) は植物プランクトンに寄生するツボカビです。今まで淡水域において、大きな植物プランクトン (>50μm) はミジンコには食べられにくいため、食物網に組み込まれないと考えられてきました。しかし、ツボカビが大きな植物プランクトンに寄生すると、その細胞質が吸い取り、成長し、遊走子を放出します。その遊走子がミジンコに食べられるという、ツボカビを介した物質経路(菌類連鎖、Mycoloop)があることを解明しました。
 この論文の知見は、物質循環の経路を新たに見出すとともに、カエルの激減・絶滅を招くカエル・ツボカビ症の蔓延を防ぐ一助になると考えられます。今後はカエルに寄生するツボカビを含め、ツボカビ全般の食物網における位置づけを明らかにしていく予定です。

(文/森上需:東邦大学東京湾生態系研究センター)

掲載論文 (Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences)

Maiko Kagami, Eric von Elert , Arnout de Bruin & Ellen Van Donk
The parasitic chytrid, Zygorhizidium facilitates the growth of the cladoceran zooplankter, Daphnia in cultures of the inedible alga, Asterionella.

参考:鏡味麻衣子講師のWebsite
http://marine1.bio.sci.toho-u.ac.jp/members/kagami/index.html

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