軟体動物多様性学会 Molluscan Diversity, 2(2). December 2010

原著

絶滅危惧種カワネジガイ(腹足綱:有肺目:ヒラマキガイ科)の岡山県における新産地

阿部 司・福田 宏

要約  岡山県吉井川水系の水田地帯にて,絶滅危惧種カワネジガイの棲息が確認された。これは岡山県における2例目の記録であり,現在同県内で確実に棲息が認められる唯一の産地でもある。今回は成貝と共に微小な幼貝・卵嚢も見られ,確認地点で繁殖していることは確実である。本種が確認された環境は泥上に植物が繁茂した水路または小溝で,水深は 10-40 cm,流速は 1 cm/s 未満であった。いずれの場所も降雨や灌漑等の増水時にのみ浸水する一時的水域である。調査地周辺においても,同様の河川氾濫原環境が維持されている場所は限定され,しかも河川改修,圃場整備,農業形態や土地利用の変化などによる破壊が懸念されるため,保全対策が必要である。

キーワード: 棲息環境,水田地帯,一時的水域,氾濫原,保全,山陽地方

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公園内の二次林における沖縄産絶滅危惧陸生貝類アマノヤマタカマイマイとオキナワヤマタカマイマイ(有肺目:ナンバンマイマイ科)の生息環境

竹内将俊・青野倫行

要約  沖縄本島南部で混生し,ともに絶滅が危惧される樹上性の陸生貝類アマノヤマタカマイマイとオキナワヤマタカマイマイの生息環境について野外調査を行った。糸満市真栄里と八重瀬町の2か所の公園内に調査エリアを設け,10 m × 10 m の区画を複数設定し,区画ごとに両種の死殻数を数えた。併せてハマイヌビワ,ガジュマル等のクワ科イチジク属の植物,草本植物,ツル植物,石灰岩など7つの環境要因の被度ランクを記録した。その結果,真栄里ではアマノが,八重瀬ではオキナワが優占していた。連続した調査エリア内でも区画によって両種の死殻数は大きく異なり,死殻数と各環境要因の被度との相関関係を解析した結果,両種ともハマイヌビワならびにツル植物の被度と死殻数の間で相関係数が高い傾向にあった。連続して設定した区画の順で環境要因と死殻数の変動をみると,アマノはハマイヌビワ被度と,オキナワはツル植物被度と同調していた。一方,死殻数の少なかった八重瀬のアマノを除き,ガジュマルの被度や他のクワ科樹種の被度とマイマイの死殻数との間では相関係数は低かった。これらのことから,両種は樹林内において特定の空間で生息数が多く,特にハマイヌビワとツル植物に依存していることが示唆された。

キーワード: ツル植物,死殻,クワ科,利用樹種,陸生貝類,沖縄本島,亜熱帯

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兵庫県北部及び島根県新記録の稀少淡水棲貝類イナバマメタニシ (新生腹足類:エゾマメタニシ科).

多々良有紀・武田広子・福田 宏

要約 これまでイナバマメタニシの自然分布域は兵庫県南部と岡山県中・東部のみとされていたが,兵庫県北部の豊岡市・養父市及び島根県出雲市において本種の棲息地を初めて発見した。本種は外来種の可能性が指摘されたこともあったが,マルタニシ・タガメ・コオイムシなど他の絶滅危惧生物が棲息する良好な自然環境下に主として見られることから,近畿地方西部〜中国地方東部の狭い範囲に固有な在来種であると結論付けられた。

キーワード: リソツボ上科,稀少種,移入種,分布,保全,水田,豊岡市,出雲市

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山形県に移入されたコベソマイマイ(有肺目:ナンバンマイマイ科)

福田 宏

要約 コベソマイマイの生貝(幼貝)が山形県北西端の飽海郡遊佐町で発見された。本種は関東以西の本州・四国・九州に分布し,東北地方での記録はなかった。今回の産地は集落内の庭園であるため,西日本からの移入と考えられる。本種及び同属の別種サンインコベソマイマイはともに幼貝において臍孔が広く開き酷似するが,臍孔内壁における濃赤紫色の彩色の有無によって識別可能であり,今回の個体はコベソマイマイに同定される。

キーワード: サンインコベソマイマイ,陸産貝類,分布,レッドデータブック,飽海郡遊佐町,東北地方

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外来水棲腹足類コモチカワツボ(新生腹足類:リソツボ上科)における日本初の雄性個体の発見ならびに新産地

緒方大地・飯田 茜・中島美貴・山崎愛柚香・園原哲司・多々良有紀・芳賀拓真

要約 世界各地に人為的に移入され,日本でも近年急速に分布を広げているコモチカワツボの新産地を,茨城県及び千葉県から見出した。本種は雌だけで単為生殖することが移入個体群の大半において知られているが,今回千葉県千葉市美浜区稲毛海浜公園で日本初となる雄が発見された。しかし,この個体群で両性生殖が行われている明確な証拠は見出されなかったが,雌性個体のみで繁殖できることが実験によって明らかとなった。また,青森県から宮崎県の10地点で本種の棲息状況を調査した結果,本種は塩分や水流の有無において著しく多様な環境条件下において棲息していることが確認された。

キーワード: ミズツボ科,移入種,単為生殖,有性生殖,淡水,汽水,棲息環境

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