軟体動物多様性学会 Molluscan Diversity, 3(1). October 2011

原著

熊本県天草市牛深町におけるホシダカラ(腹足綱:タカラガイ科)の生貝の発見

中野智之

要約  ホシダカラはインド西太平洋の熱帯域に広く分布する普通種であるが,日本の温帯域 (九州以北) での報告例は極めて少ない。今回,熊本県天草市牛深町茂串白浜海岸において本種の生貝が見いだされた。これは日本暖温海域における本種の生貝産出記録として6例目である。

キーワード: タカラガイ類,分布,暖温海域,温暖化

目次へ


秋田県男鹿市で発見された外来二枚貝類コウロエンカワヒバリガイ (イガイ科) の死殻

岩崎敬二・福田 宏

要約  オーストラリアとニュージーランドを原産とするイガイ科外来二枚貝コウロエンカワヒバリガイの死殻半片を,2007年8月21日に,秋田県男鹿市の船越水道左岸,男鹿大橋北詰で採集した。本種は1972年に岡山県児島湾で初めて発見されて以降,西日本で分布を拡大し続けており,2010年までには,太平洋沿岸では千葉県いすみ市から宮崎県延岡市まで,日本海では富山市から佐賀県伊万里市まで,東シナ海でも有明海の各地で発見されていた。男鹿市で発見されたこの死殻が,もし,この場所で生息していたとすれば,これまでの日本海沿岸での最東端記録であり日本全体での最北端記録であった富山市の記録から,直線距離にして400 km以上,緯度にして一気に3°以上も北上するものとなり,従来の分布記録を大きく塗り替える日本最北端記録となる。東北地方日本海側での本種の分布拡大も懸念されるため,男鹿市とその周辺での精査が望まれる。

キーワード: 移入種,イガイ科,分布,八郎潟,日本海

目次へ


鹿児島県で発見された絶滅危惧種オキヒラシイノミ(腹足綱:有肺目:オカミミガイ科)の新産地

福田 宏・多々良有紀

要約  日本産オカミミガイ科貝類のうち最も絶滅が危惧される種の一つオキヒラシイノミの新産地が鹿児島県北部の東シナ海沿岸で発見された。これは本種の鹿児島県における初めての確実な記録である。本種は過去の文献上では九州西岸の河口部ヨシ原に棲息するとされてきたが,近年はヨシ原の環境が悪化したこともありわずか数箇所の海岸林林縁の飛沫帯から確認されているに留まる。これに対し今回の個体群は過去の記録と同じく河口のヨシ原から見出され,他の多くの産地で失われた棲息状況を示す点で貴重である。本種の特異な分布パターンや保全上の重要性も併せて論じる。

キーワード: 汽水域,河口,ヨシ原,マングローブ,保全,九州,東シナ海

目次へ


八丈島から得られた明瞭な眼を欠くミジンギリギリツツガイ科の1種 (腹足綱:リソツボ上科)

多々良有紀

要約 東京都八丈島の大賀郷大潟浦において採集された Caecum sp. ミジンギリギリツツガイ科の1種の軟体部を観察したところ明瞭な眼は確認できなかった。今まで本科には眼が退化した種の報告はない。眼の退化はしばしば深海や洞窟での暗闇の適応として生じることが知られているが,本種は転石間隙のほとんど光が届かない環境において眼が退化したと考えられる。

キーワード: ミジンツツガイ類,新生腹足類,微小貝類,退化,伊豆諸島

目次へ