軟体動物多様性学会 Molluscan Diversity, 4(1-2). December 2015

原著

西南北海道上ノ国町におけるカズラガイ(腹足綱:トウカムリ科)の発見

圓谷昂史・鈴木明彦

要約  西南北海道日本海側の松前半島上ノ国町の砂浜海岸に打ち上げられたカズラガイについて検討した。カズラガイは,暴浪時に汀線に打ち上げられたものであろう。また,ベンケイガイやホタルガイのような暖流系種を伴っていた。上ノ国町における本種の出現は,2010年以降の日本海北部の海面水温の上昇と関連していると思われる。今回のカズラガイの打ち上げ記録により,日本列島の日本海側における本種の分布域はおよそ北緯41°48' に延長された。

キーワード:  分布拡大,温暖化 ,日本海

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ミヤマヒダリマキマイマイ(腹足綱:ナンバンマイマイ科)種内の形態変異と分子系統

川瀬基弘・西尾和久・森山昭彦・市原 俊・桜井栄一

要約  ミトコンドリアのCOI遺伝子領域を用いた分子系統解析の結果,Euhadra scaevola (Martens, 1877) ミヤマヒダリマキマイマイ個体群には大きく2系統が存在し,一方は E. scaevola scaevola ミヤマヒダリマキマイマイに,他方は E. s. interioris Pilsbry, 1928 ヒラヒダリマキマイマイに相当する可能性が示唆された。2つの系統間では殻サイズが有意に異なっており,殻形態により区別できる可能性が高い。なお,ヒラヒダリマキマイマイと E. s. mikawa Amano, 1939 ミカワマイマイは,塩基配列では識別できず,系統的に異なる分類群ではないと考えられる。ただし,愛知県豊橋市で採集されたミカワマイマイは,他の地点で採集されたミカワマイマイ/ヒラヒダリマキマイマイとは系統的に異なる可能性のあることが示唆された。

キーワード: ミヤマヒダリマキマイマイ,ヒラヒダリマキマイマイ,ミカワマイマイ,地理的変異,COI,分子系統

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静岡県沼津市戸田におけるチョウセンスナガイ(腹足綱:キバサナギガイ科)の発見

平野尚浩

要約  静岡県沼津市戸田の御浜海水浴場において,チョウセンスナガイの個体群が発見された。これは静岡県における本種の初めての記録である。本種は国内では,内陸部を中心に記録されており,沿岸部での記録は少ない。御浜海水浴場は,和歌山県西牟婁郡白浜町,宮城県石巻市万石浦瀬戸島に次ぐ国内3例目の沿岸部における産出記録である。

キーワード: スナガイ属,歯状突起,沿岸部

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長崎県九十九島におけるベッコウイモ(腹足綱:新生腹足類:イモガイ科)の生貝の発見,及び本種のインポセックスと保全上の重要性

中島広樹・川久保晶博・福田 宏

要約 長崎県北西部の佐世保市九十九島周辺で,2011〜2013年,漁業者らによって生きたベッコウイモ3個体が捕獲され,室内で飼育した。本種は1970年代までは日本の温帯域の普通種であったが,有機スズを原因物質とするインポセックスに伴う生殖障碍の影響を被った可能性があり,近年国内各地で強い減少傾向にある。長崎県でも今回が1980年代以降初めての生貝の確実な産出例となるが,検討した3個体ともインポセックスの症状を示していた。本種は今後レッドデータブック等において絶滅の恐れのある種に指定する必要がある。

キーワード: イモガイ類,新腹足類,絶滅危惧種,生物多様性保全,肉抜き,東シナ海,日本海,九州

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兵庫県内における淡水二枚貝類フネドブガイ(二枚貝綱:イシガイ目)の生息状況

秋山吉寛・木塚俊和・松本修二

要約 兵庫県における絶滅危惧種 Anemina arcaeformis (Heude, 1877) フネドブガイの生息状況を報告する。本種は2013年5月に加古川水系の排水路にて,地元住民によって偶然7個体採集された。さらに,2014年5月に同じ排水路で5個体が新たに採集された。現地調査の結果,地元住民の証言,過去に行われた二枚貝類の野外調査の結果から,調査した排水路周辺のフネドブガイの密度は低いと推察される。兵庫県では今後,本種の保全に向けた活動が必要である。

キーワード: 新産地,加古川水系,排水路,淡水二枚貝類,イシガイ科

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諫早湾潮受け堤防外側周辺海域における短期開門調査以降の底生動物相の経年変化:特に北部排水門外側定点で採集されたヒナノズキン(二枚貝綱:マルスダレガイ目:ウロコガイ上科)について

山元綾弥香・佐藤慎一・東 幹夫

要約 諫早湾潮受け堤防外側周辺海域において底生動物相の経年変化を調べたところ,2002年4月から5月にかけて実施された短期開門調査の前後に,二枚貝類やヨコエビ類の平均生息密度が最も高く,その後は2004年から2005年にかけて急激に減少したことが明らかになった。また,2002年3月,2004年8月,2012年6月,2013年6月に,北部排水門周辺海域においてDevonia semperi (Ohshima, 1930) ヒナノズキンが10個体以上採集された。これまで有明海奥部で本種が採集された記録はわずかしかなく,日本全体でも瀬戸内海や天草,八代海,博多湾で数カ所の採集記録があるのみである。本論文では,諫早湾潮受け堤防外側周辺海域における本種の分布様式や,ホストとなるイカリナマコ類の同定,および日本各地における本種の採集記録についてまとめ,生息環境について議論する。

キーワード: 有明海,二枚貝類,ヨコエビ類,イカリナマコ類,還元環境

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成ヶ島および紀淡海峡の礫浜海岸飛沫帯上部で採集された稀少腹足類3種

和田太一・川渕千尋・為後智康

要約 2014年3月から4月にかけ,兵庫県洲本市成ヶ島の礫浜海岸飛沫帯上部において全国的にも記録の少ない稀少腹足類の3種,ヤマモトゴマオカチグサ,キバサナギガイ,チョウセンスナガイが採集された。ヤマモトゴマオカチグサとチョウセンスナガイは兵庫県初記録である。その後,紀淡海峡の礫浜海岸飛沫帯でも調査を行い,ヤマモトゴマオカチグサがこの周辺に広く分布していることや,大阪府での産出を初めて確認した。ヤマモトゴマオカチグサの生息に必要な条件は,潮通しの良い礫浜海岸であること,飛沫帯上部の日中も薄暗い場所であること,そして湿った黒い土の堆積した環境が形成されることの3点であると考えられる。また,同種の命名学的問題も併せて論じる。さらに,キバサナギガイは従来ヤマトキバサナギと混同されてきたため,両種の識別点にも言及する。

キーワード: 新産地,生息環境,保全,命名法,友ヶ島,淡路島,カワザンショウ科,キバサナギガイ科,ヤマモトゴマオカチグサ,キバサナギガイ,ヤマトキバサナギ,チョウセンスナガイ

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東日本大震災後の宮城県で発見された絶滅危惧種ミズコハクガイ(腹足綱:ヒラマキガイ科)の新産地

齊藤 匠

要約 宮城県内の3地点において絶滅危惧種ミズコハクガイが採集された。これらは宮城県における新産地であるとともに,同県の既知産地は2011年の東日本大震災時の津波で壊滅したため,現状,同県においてはこの3地点のみが確実な生息地である。また,3産地のうち1地点については震災時の津波被害を被った産地であり,震災後の自然環境の回復が速やかに起こっていることが示唆される。東北地方においては,本種を含む淡水産貝類の基礎的な分布情報が著しく不足しているため,早急な調査が望まれる。

キーワード: 淡水産貝類,津波,保全

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