東京湾における市民参加型干潟生物調査(2009)

2009年に、日本国際湿地保全連合・鈴木孝男氏らにより提案された手法により、身近な環境の生物多様性の社会的認識の向上および生物相の長期的なモニタリングをめざした市民参加型干潟調査を実施した。その結果から、調査人数と発見種数の検討および出現種について考察を行い、今後のより有効な市民参加型干潟生物調査のあり方を検討してみた。
(このページの内容は、2009年12月5日に船の科学館にて行われた東京湾海洋環境教育シンポジウムでの発表内容を再編したものです)

調査概要

調査日・地域

調査法は「干潟生物調査ガイドブック 東日本編」(鈴木孝男・木村昭一・木村妙子 著, 2009)に準拠 ただし人数については最適数を求めるためより多人数で行っている。

1. 調査エリア

  • 三番瀬:前浜干潟域1エリア
  • 小櫃川河口:前浜干潟および後背湿地エリア

2. 調査人数と発見種数

各エリアごとに発見種数の多い人・少ない人順に種数を積算した結果(グラフのクリックで拡大)

三番瀬
(40種・26人)
小櫃川河口前浜
(61種・22人)
小櫃川河口後背湿地
(26種・13人)

いずれのエリアにおいても傾向は共通

  • 発見種数の多い参加者順に積算した場合は対数曲線近似の増加を示し、上位半数程度で大部分の出現種を記録
  • 発見種数の少ない参加者順の場合は、直線近似の増加を示し、1人増加ごとに一定数の増加

参加人数が少ないほど、また生物の種数が多いほど参加者の発見率の向上が必要であり、事前の情報提供と生物教育が重要となる。また、種数の多い干潟では多数の参加を得ることが望ましい。

 

3. 出現種とその特性

それぞれのエリアごとの出現種(表のクリックで全体表示)

三番瀬
(40種・26人)
小櫃川河口前浜
(61種・22人)
小櫃川河口後背湿地
(26種・13人)

発見率の高い種(上位5種)について

  • 3エリア全てでランクイン:ユビナガホンヤドカリ
  • 2エリアでランクイン:ホソウミニナ・アラムシロ・アサリ
  • 三番瀬・小櫃川河口前浜では3種が共通
  • 小櫃川河口後背湿地では他2エリアと異なりカニが多い

それぞれのエリアで多産する代表種が把握され、環境特性をある程度反映する結果となっている

出現種全体の傾向

a) 確認率の高い種(いずれかの地点で確認率が0.3以上)

これらの種に共通性の高い特徴

  • 密度が高い
  • 動きが大きい
  • 比較的大型
  • 表面が堅く形態が一定
  • 埋在でも掘れば見える

参加者が発見しやすく、または認識しやすい特徴を備えている種が多い

移動性が高い、または高密度な、いわゆる「普通種」が多くなる可能性が高い

b) 確認率の低い種(いずれの地点でも確認人数が1人以下の種)

これらの種に共通性の高い特徴

  • 密度が低い
  • 動きが緩慢または不動
  • 比較的小型
  • 体が柔軟で形態が特異
  • 表在でも間隙性

参加者が発見しにくい、もしくは認識しにくい特徴を備えている種が多い

移動性が低い、または低密度で特異性・希少性の高い種が多くなる可能性が高い

それぞれの干潟を特徴づける種群を
含んでいるのでは?

4. まとめ

市民参加型の干潟生物調査で効率よく有効な結果を得るには

a) 参加者・主催者に求められるもの

多人数の参加

)

知識レベルの向上

が不可欠

探索意欲の向上

分析能力の向上

そのためには

魅力的なプログラムの提案

)

効率的な学習資料の開発

が重要

作業の安全・快適性の確保

優良な指導者の確保・育成

b) 資料・社会に求められるもの

資料面の要求性

  • 対象地域に即した"Compact"性
  • 形態・生態情報を併用した同定法
  • 生息環境と着目点を明示した探索法
  • 同所的に出現する生物の推定

社会面の要求性

  • 対象地域の生物生態情報の収集と確認
  • 分類学的情報の収集と確認能力の向上
  • 研究者の有効活用と「相利共生」
  • 安全管理・快適性確保への支援