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クラゲに注意

2008.11.14


(写真:多留聖典)

 今年の2008年は、8月の前半から関東近辺の海でクラゲに刺されたという被害報告が多く報じられた。これらのクラゲの多くは、カツオノエボシ、アカクラゲ、アンドンクラゲの3種と思われる(ちなみに私は、上記3種全てに刺されたことがある)。最も数の多いミズクラゲによる被害はほとんどない。恐らくアンドンクラゲ Carybdea rastoni によるものが最も多いであろう。刺胞動物門箱虫綱に属し、文字通り立方体のような形状の傘を持ち、その4隅から薄桃色の触手が伸びている。触手を除き、体全体がほぼ無色透明であり水中では目立たず、クラゲとしてはかなり高速で遊泳する。しかも、高度な眼(レンズ眼)を有し、遊泳時には視覚情報を利用している (Ueno et al., 2000)。
 箱虫綱にはハブクラゲやヒクラゲ等、毒性の強い種が多い。オーストラリアにはさらに毒の強いハブクラゲの近縁種 Chironex fleckeri が分布しており、死亡事故が多発するため血清が作成されている。クラゲ類の刺胞毒の多くはタンパク質であり、複数回刺された場合にはアナフィラキシーショックを起こす可能性もあるので注意が必要である。


 ときおり、アンドンクラゲが多数群れているのを見かけることがある。アンドンクラゲは雌雄異体であること、また先述のように高い遊泳力と視力を有することから、繁殖のために意図的に集合している可能性が示唆されている (上野, 2005)。こういったところにクラゲに気づかずに立ち入ってしまうと、非常に悲惨な事態になるであろう。
 また、ハワイでは出現と月齢周期に関連があることが知られている。
ホノルル市では該当する日に「クラゲ注意報」を発令しており(現在はhttp://www.808jellyfish.com/に移転している)満月のおよそ10日後前後が指定されている。これも繁殖活動と何らかの関連があるのかもしれない。
 アンドンクラゲに刺された場合は、一般的には食酢またはアルコールをかけて、刺胞を不活性化させてピンセットなどで取り去って、患部を冷やすとされている(ただし、この対処法は上記の C. fleckeri の知見に基づいており、アンドンクラゲに対してはあくまで経験則のようである)。酸性毒ではないためアンモニアはもちろん、オシッコも効果はない。


(写真:多留聖典)



(写真:多留聖典)

 もちろんクラゲに刺された場合、酢をかければよいと言うものではなく、カツオノエボシやアカクラゲなど、他の種に刺された場合は、酢は逆に刺胞を活性化する可能性もあるといわれている。基本的にはまず海水で刺胞を除去し、患部を冷却するとされている。
 つまり、クラゲによって対処法が異なるため、何に刺されたのか確認が必要である。海水浴等に行かれる際には、事前に危険な生物を図鑑などで確認しておくのがよい(打ち上がっているカツオノエボシに触れないよう意識することにもなる)。もっとも、アカクラゲやカツオノエボシであれば、海の中でもかなり確認しやすいのだが、それでも混雑して透明度の低い海水浴場では見落とす可能性が高い。アンドンクラゲは無色透明で現場での確認がかなり困難である。とにかく、刺されてしまったら、適切な応急処置の後に病院に行くのがよいであろう。

※ (c) 東邦大学理学部東京湾生態系研究センター 出典を明記しない引用を禁じます。
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