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ドロオニスピオとアミメオニスピオ

2017.1.3


(写真:阿部博和)

 日本全国の砂泥干潟において、多毛類スピオ科の一種ドロオニスピオ Pseudopolydora cf.kempi は普通種とされており、多くの研究報告や調査結果に出現が記録されている。しかし今までドロオニスピオとされていた種の中に、非常によく似た別種(P. cf. reticulata)が含まれている(左写真)ことが阿部博和 訪問研究員らの研究により明らかとなり、その種に和名「アミメオニスピオ」を提唱した論文が2016年12月に発表された(Zoological Science 33(6): p. 650-658)
 アミメオニスピオは、
Radashevsky & Hsieh (2000) で台湾から記載されたP. reticulata である可能性が高いが、肉冠がやや短く、体サイズが2倍程度と大きい。また、Radashevsky & Hsieh (2000) で本種と近似するとされるP. bassarginensis (Zachs, 1933) の記載が簡素であり不確定な部分があり、インドで記載された P. kempi (Southern, 1921)も不完全な標本に基づいており、その日本産亜種として記載された P. kempi japonica Imajima & Hartman, 1964 も Okuda(1937)の日本産個体の報告に依る記載である可能性が高い。従って学名の確定が困難であることから、今のところ学名を P. cf. reticulata と表記している(cf. はラテン語の confer の略で、その種である可能性が極めて高いが断定できないことを示す)。

 

※東邦大学ではその内容についてプレスリリースを発表しているので、概略については上記論文およびプレスリリースを参照されたい。なお、この論文では同時に、日本での初報告となった同属のP. achaeta についても、「トラオニスピオ」という和名を提唱した。


 宮城県の蒲生干潟では、過去の記録で P. cf. kempi のみが記録されているものの、実際には両種がともに棲息していることが確認されており、今後は両者の識別に注意をはらう必要がある。幼生についてもドロオニスピオは卵から12-14体節の幼生で孵化し浮遊期間が短く、一方のアミメオニスピオは3体節で孵化し浮遊期間が長い(Kondo et al., 2017)。Myohara, 1979により報告された忍路産の "P. kempi japonica " の成体・孵化幼生の特徴はアミメオニスピオとよく一致しており、この論文の"P. kempi japonica "は、実際にはアミメオニスピオであった可能性が高いと考えられる。
 また東京湾ではアミメオニスピオが前浜の砂質の強い干潟に高密度で見られ(右写真)、ドロオニスピオはやや泥質の強い干潟や潮下帯泥底で見られるなど、アミメオニスピオはドロオニスピオに比べ砂地の強い底質を好む傾向が感じられる(同属のコオニスピオP. paucibranchiata の方が、ドロオニスピオよりもさらに泥質を好むようである)。


(写真:多留聖典)



(写真:阿部博和)

 以上のように分類が混乱し、今まで混同されていたドロオニスピオおよびアミメオニスピオの同定における形態的な識別点は、左写真(クリックで拡大)に示すように基本的に生時の体色の相違である。ドロオニスピオでは副感触手に不規則な小白点が生じるが、アミメオニスピオには生じない。またアミメオニスピオでは体前部背面に薄く、和名の由来となった網目状の黒色素が分布するが、ドロオニスピオにはそれが見られないかまたは小黒点が対になって存在するのみである。しかしこれらの特徴は新鮮な標本や生時には有効な識別点であるが、褪色した固定標本では識別は困難である。固定標本での識別で最も確実性の高い部位は、現在のところ肉冠の黒色素であろう。アミメオニスピオでは肉冠の黒色素が固定後も残ることが多いが、ドロオニスピオでは全く無いか小さな点にしかならない。もちろん、あまりに長期間が経過して、完全に褪色した標本では判定ができないこともあり、その場合の種の同定は非常に難しい。

※当センターの「写真図鑑 東京湾の動物たち」でも、以前より P. cf. kempi を「ドロオニスピオ」とし、P. cf. reticulata については「ドロオニスピオ近似種」と表記してきたが、この和名の提唱を受けて「アミメオニスピオ」とする。

※ (c) 東邦大学理学部東京湾生態系研究センター 引用元を明記しない引用を禁じます。
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