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東京湾内湾の微小な巻貝 (3)ミズヒキゴカイのまわりで: トウガタガイ科

2007.1.10

 


(写真:多留聖典)

 東京湾をはじめとする内湾の海底では、ミズヒキゴカイCirriformia cf. comosa をよく目にする。汚濁や貧酸素にも強いようで、他の生物がほとんど見られない海底であってもミズヒキゴカイだけは生き残っていることがある。一方、魚類や甲殻類にとって重要な餌資源となっているかというとそうではないようだ。ミズヒキゴカイを掘り起こしても、魚類や甲殻類は全く寄ってくる気配を見せない。相当不味いか、忌避物質を持っているのではないだろうか。


 そんなミズヒキゴカイの体液を吸って生活している貝類がいる。トウガタガイ科に属する貝類の一部である。これらの種は体液専食であるために歯舌を持たない。今回紹介する種はいずれも殻高は約10mm程度の小型種である。なかなか目に付かないが、拡大してみるとガラス細工のような殻がなかなかに美しい。この種は、葛西臨海水族園の潜水調査に同行した際に浦安沖で採集したシロイトカケギリ Turbonilla multigyrata。ややふくらんだ各螺層に、傾いた縦肋を持つ。


(写真:多留聖典)



(写真:多留聖典)

 こちらは、同じ場所で同時に採集したヨコイトカケギリダマシ Paracingulina terebra。縦肋がなく、螺肋の間が狭い。また、全体にややふくらんだ形態をしている。よく似たミスジヨコイトカケギリ Paracinglina triarata もこのあたりの海域で出現した記録があるが、殻底に螺肋がなく、また一番下の螺肋が太くなる。


 そして、上のヨコイトカケギリダマシとよく似ているが、螺肋の間が広く、殻のふくらみが弱い。ヨコイトカケギリ属と思われる1種 Cingulina? sp.。江戸川放水路で採集したもの。もう少し外洋よりの岩礁間の砂地に出現するヨコイトカケギリ Cingulina cingulata とたいへんよく似ており、殻の形態では差が見られない。別種かどうかも議論が分かれるところであり、今のところヒガタヨコイトカケギリという仮称で呼ばれることもある。


(写真:多留聖典)


(写真:多留聖典)

 こちらは東京湾産の貝ではない。トウガタガイ科の中で最大種であるタケノコクチキレLongchaeus acus 。伊豆半島西岸で採集したもので、殻高約4cm。ぱっと見にはとてもトウガタガイ科とは思えず、一瞬タケノコガイ科かと勘違いしてしまう。この種も、埋在するゴカイ類の体液を吸っていると言われている。図鑑の記載によると、紀伊半島以南に分布するとされているが、採集された海域では生貝以外にも多数の新鮮な殻が確認された。

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