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東京湾の希少種(1)

2013.2.10


(写真:多留聖典)

 2012年7月に「干潟の絶滅危惧動物図鑑 海岸ベントスのレッドデータブック」(日本ベントス学会編)が出版された。筆者も編集委員に加わったが、編集中〜出版後に東京湾での報告がほぼない、もしくは絶滅とされた種が見つかった。棲息が確認されたことは喜ばしいが、もちろん危機的であることには変わりがない。まずは東京湾の誇る広大な干潟である小櫃川河口周辺での発見種から紹介する。なお、以下の種の発見には、海上智央氏(株式会社自然教育研究センター)のご尽力を頂いた。感謝申し上げる。

 カワアイ(キバウミニナ科:準絶滅危惧)。泥干潟に棲息している。東京湾では行徳鳥獣保護区(新浜湖)および隣接する江戸川放水路にのみ棲息していたが、本個体は小櫃川右岸の湿地帯で発見された。詳しい情報は柚原ほか(2014)に示されている。


(写真:多留聖典)


(写真:多留聖典)

 ウスコミミガイ(オカミミガイ科:準絶滅危惧)。潮間帯上部の石や漂着物の下などに棲んでいる。干潟棲のオカミミガイ科の中では東日本でも比較的産地の多い種であるが、東京湾では数カ所しか報告がない。乱獲防止のため、産地情報の詳細部は非公開とせざるをえない。

 ハマガニ(モクズガニ科:準絶滅危惧)。ヨシ原内に棲息する大型のカニで、千葉県RDBでは消息不明・絶滅とされる。小櫃川河口の後背湿地のヨシ原内でごくまれに確認される程度で、夜行性であることもあり、確認例は非常に少ない。


(写真:多留聖典)


(写真:多留聖典)

 ヒメアシハラガニ(モクズガニ科:準絶滅危惧)。小櫃川右岸の泥質のクリークで発見された。ここ数年確認されているが、個体数は年ごとに変動がある。東京湾での分布は非常に限られており、生息環境も保全が必要な状況であるが、なぜか千葉県RDBには掲載されていない。

 トリウミアカイソモドキ(モクズガニ科:準絶滅危惧)。小櫃川本流付近で発見された。アナジャコやニホンスナモグリの巣穴に共生する。今まで東京湾の湾奥部には分布しないとされていたが、ごく少数ではあるが棲息しているようだ。西日本の干潟では比較的よく見られるが、小型のため見落とされがちである。


(写真:多留聖典)


(写真:多留聖典)

 ギボシマメガニ(カクレガニ科:絶滅危惧IB類)とミサキギボシムシ(ギボシムシ科:情報不足)。前浜の砂質底で確認された。ギボシマメガニはミサキギボシムシとのみ共生する。東京湾内湾でギボシムシ類が確認されたのは実に132年ぶりだそうだ。ミサキギボシムシは非常に沃素臭が強く、底土を掘り返してその存在が臭いで判る。

 アカホシマメガニ(カクレガニ科:絶滅危惧II類)とスジホシムシモドキ(スジホシムシモドキ科:準絶滅危惧)。前浜の砂質底で確認された。この両者も共生関係にある。アカホシマメガニは特に有明海以外ではあまり見られず、筆者も八代海や瀬戸内海の干潟で少数を見たことがあるだけであり、スジホシムシモドキ自体が少ない東京湾での発見はやや驚きである。


(写真:多留聖典)

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