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サンバンセツバサゴカイ

2005.12.17


(写真:多留聖典)

 東京湾湾奥部の生物は、身近な海でありながらまだ多くの謎に包まれており、新たな発見が続いている。そんな生物の一つが、2004年4月に新聞で報道された「サンバンセツバサゴカイ」である。
 サンバンセツバサゴカイSpiochaetopterus sanbanzensis は、当センター長の風呂田が1985年10月に採集した標本に基き、当センター訪問研究員の西らが新種記載した。記載論文は
Zoological Science (21) p. 457-464に掲載されている(上記リンクはJ-Stageからのpdfファイル:772kB)。左の写真は2005年5月に、三番瀬にて撮影されたもの。撮影直後に西の確認をとった。恐らく本種の初めての生態写真だろう。棲管の直径は約1mm。


 東京湾には、本種に類似する別種が棲息している。アシビキツバサゴカイ近似種 S. aff. okudai は、サンバンセツバサゴカイより深い水深の泥底で見られる。2005年12月8日に、葛西臨海水族園の調査に同行し、葛西沖で潜水する機会を得た。その際、水深6m前後の海底に数多くの棲管が確認された。写真のイソギンチャクの周りにからみついている、透明なチューブが棲管である。ただし本体は入っていないものが多かった。


(写真:多留聖典)



(写真:多留聖典)

 注意深く海底を観察すると、ところどころに海底から突き出した棲管が確認された。しばらく見ていると、そこから2本の副触手髭が伸びて、水中でゆらゆらと動いていた。どうやら、こうやって水中の浮遊物を集めているように見える。
 この海域には多数の個体が生息していることが見てとれた。おそらくは、サンバンセツバサゴカイも同様の採餌活動をしていると考えられ、今後の研究により本種のより詳しい生態が明らかになることが期待される。
 ちなみに、新聞やwebpageに「92年ぶりの新種ゴカイ」とあるが、これは「東京湾湾奥部産の標本に基づき記載された多毛類の新種が92年ぶり」ということ。新種のゴカイはそれこそ日々発見・記載されており、他の地点で記載された新種のゴカイが東京湾で見つかることも珍しくないし、まだ名前の付いていない生物(未記載種)はゴカイ類だけでなく他にもいくらでもいる。上の写真のイソギンチャクも未だにAnthopleura属の一種としかわからない。誤解なきよう。

※ (c) 東邦大学理学部東京湾生態系研究センター 引用元を明記しない引用を禁じます。
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