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ヒガタケヤリムシ

2006.2.18


(採集:多々良有紀,写真:多留聖典)

 東京湾湾奥部の江戸川放水路および新浜湖で採集された多毛類(ゴカイ)に、日本で初記録のものが含まれていた。Laonome albicingillum というケヤリ科の小型種である。東京湾以外にも、博多湾の今津干潟や、タイのエビ養殖場の底泥からも標本が得られている。
 本種については、今までは台湾からしか記録がなく、分布域についての詳細な報告は得られていなかった。今回、日本から記録されたことで、「ヒガタケヤリムシ」という和名が提唱された。
 一般に「ケヤリムシ」というと、
岩礁海岸やサンゴ礁域などで華やかな鰓冠を広げた姿を思い浮かべるが、この種は実体顕微鏡で見ないと、とてもその仲間には見えない。


 本種は、汽水域の潮間帯下部の泥干潟の表面に多く出現し、新浜湖や江戸川放水路において小型のベントスを採集する際には普通に確認される。しかしながら、1mmのメッシュに残るか残らないかのサイズという小型の種であり、またChoneEuchone などの近似属との識別も困難なため、今まで見落とされていたか、別属の種として扱われていた可能性が高い。しかしながら、Laonome 属では白帯が第一剛毛節上部にあるのに対し、他の近似属では白帯が第二剛毛節の剛毛列後部にあることで区別されるとのこと。
 右図は鰓冠を開いた状態。この姿を見ると確かにケヤリ科であることが理解できる。


(採集:多々良有紀,写真:多留聖典)



(採集:多々良有紀,写真:多留聖典)

 鰓冠を拡大したところ。意外に華やかで、かつ繊細な構造が確認できる。
 本種のような干潟の小型の多毛類については、同定が困難な上、分類的にも不明な点がかなり多いことから、生物調査などにおいても評価の対象とされることは少ない。だが、個体数はかなり多く、干潟の浄化機能や物質循環などを考慮する上では、無視することのできない存在である。今後は、生態面に関する研究がさらに進められなければならない。

 なお、この写真の個体は、下記の記載に用いられ、現在は千葉県立中央博物館海の分館に収蔵されている。

掲載論文

西栄二郎・田中克彦・森敬介・藤岡義三 (2005) 博多湾と東京湾の干潟から採集された日本初記録のヒガタケヤリムシ(新称)Laonome albicingillum (多毛綱, ケヤリ科) 南紀生物 47(2) : 115-118

※ (c) 東邦大学理学部東京湾生態系研究センター 引用元を明記しない引用を禁じます。
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