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カイヤドリウミグモ(1)

2007.7.18

 2007年7月現在、千葉県の小櫃川河口付近に広がる盤洲ではアサリ漁が休漁に追い込まれ、漁業に大きな被害が生じている。筆者の元に、漁業者からの相談が届いたのは6月下旬のこと。今年の春から「死んでいるマテガイやアサリが妙に多い」という話が出ており、4月には潮干狩り客の指摘でアサリから寄生生のウミグモであるカイヤドリウミグモが発見された。そして6月下旬にアサリの大量斃死が発生し、また残ったアサリにもウミグモが寄生し、出荷できない状態とのことであった。


(写真:多留聖典)

 カイヤドリウミグモ (Nymphonella tapetis) は、節足動物門皆脚(ウミグモ)綱皆脚目に属する。皆脚目はその名の通り全身が脚のような体型であり、実際に生殖巣が歩脚の中に至る特異な体制から、節足動物の中でもウミグモ亜門という独自のグループを形成している(亜門が違うと、分類上はヒトとホヤぐらい違うことになる)。もちろんクモではないので、糸を出したり咬毒を持っていたりはしない。
 この種は、幼生時にアサリやオニアサリ、シズクガイ、キヌマトイガイなどの二枚貝の外套腔に寄生し (Ogawa & Matsuzaki, 1985)、成体になると外に出て砂中に入るとされている(Ohshima, 1933)。写真は、アサリの大量斃死が発生する前の6月14日に、木更津・盤洲干潟の前浜で、学生実習の際に採集された成体(体長約6mm)。このときは3個体が採集された。


 そこで7月14日に、盤洲干潟で現状を把握するための調査を行った。折しも台風が接近して雨天であったが風は弱く、河口付近から金田海岸付近までの計5地点でアサリ、シオフキ、マテガイ、サルボウ、ムラサキイガイ、ホトトギス、マガキ、ウメノハナガイモドキ、ヒメシラトリといった二枚貝類、さらにイボキサゴ、ホソウミニナ、アラムシロ、コメツブガイ、サキグロタマツメタなどの腹足類を採集した。


(写真:多留聖典)



(写真:多留聖典)

 干潟を歩いていると、多数のアサリの新鮮な死殻が目に付いた(左写真の下2個体)。また、死んでいなくても、砂に潜らずに干潟面に露出した個体も多く確認された(左写真の上1個体)。このように干潟面に露出した個体を観察してみると、右上白枠内のように殻がやや半開き状態になっているものが多く見られた。調査当日は先述の通り天候も悪く、潮干狩り場からも離れており、周囲には全く人影がなかったことから、人為的に掘り出されたものとは考えにくい。


 そして、さらに衰弱して、アラムシロやユビナガホンヤドカリ、マメコブシガニなどに捕食されている最中の個体も頻繁に観察された。この状態の貝を取り上げると、中にウミグモの寄生が確認できるものもあったが、すでに軟体部の残りがわずかなものも多く、この時点では衰弱とウミグモの関連性は明らかではなかった。


(写真:多留聖典)



(写真:多留聖典)

 アサリ以外では、特にシオフキに同様の個体が見られ、干潟面に露出して殻を完全には閉じていない個体が多く見られた。写真の個体はユビナガホンヤドカリに捕食されかかっている。
 しかしながら今回の調査では、干潟の砂中で単独生活しているカイヤドリウミグモを確認することはできなかった。これ以上の解析は、研究室に持ち帰って解剖する必要がある。その結果は
次回にお伝えしたい。

その2へ続く

※ (c) 東邦大学理学部東京湾生態系研究センター 引用元を明記しない引用を禁じます。
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