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カイヤドリウミグモ(2)

2007.7.19

前回お伝えしたとおり、小櫃川河口周辺で寄生生のカイヤドリウミグモの発生が確認され、アサリ漁が休漁になっている。その実態を確かめ、また詳細な情報を得るために現地調査を行った。今回はその調査で採集した標本から得られた情報の概要をお伝えする。定量的な分析については、今後解析が進み次第発表する。


(写真:多留聖典)

 干潟表面に露出していた、やや殻を開いたままのアサリの内部をのぞき込んでみたところ。外套腔内の唇弁から鰓にかけて、複数個体の、比較的大型のカイヤドリウミグモが内部に寄生している様子が見える。


 アサリを開き、外套膜を切開したところ。およそ半数の個体からカイヤドリウミグモが発見された。外套腔から鰓、唇弁に至る範囲に、ざっと見て大小あわせて数十個体が蟄居している。片面でこの個体数なので、両面合わせるとおおよそこの倍の個体数ということになる。カイヤドリウミグモは、幼生時に寄主の体液を吸って成長するとされており(大島, 1939 )、これだけ多くの個体が入っていれば、寄主に対する負担は栄養面でも相当なものだろう。


(写真:多留聖典)



(写真:多留聖典)

 鰓の部分を拡大したところ。体長約0.5mm〜2mm程度の幼生が数個体見られる。上写真のように、大型個体が外套腔を占拠し、小型個体が鰓に侵入していることから、寄主となっているアサリは、体液を吸われるだけでなく。体内での水の循環を大きく妨げられることになり、栄養面だけでなく呼吸面からもダメージを受けていることが推測される。


 シャーレ1つの内容が、それぞれ1個体のアサリから取り出されたカイヤドリウミグモ。大小あわせて約50個体ほどである。これは珍しいケースではなく、殻長がおよそ25mm以上の大型の個体では概算で9割ほどの個体が寄生を受け、そしてほとんどの例で複数個体のウミグモの寄生を受けていた。


(写真:多留聖典)



(写真:多留聖典)

 そして、殻長数mmの小型のアサリからもウミグモが発見された。写真のアサリは殻長約10mm。ウミグモはほぼ成体に近い大きさで体長約5mm。歩脚を広げた場合、間違いなくアサリの殻からはみ出る。もっとも小型のアサリでは、殻長7mm台から寄生を受けていることが確認された。小型の個体は寄生率は低いものの、寄生を受けてしまえばかなり深刻な影響を受けることは間違いない。

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