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東京湾内湾の微小な巻貝 (4) 多摩川河口

2007.4.13

 多摩川の河口付近には、比較的広範囲に渡り砂泥質の干潟が広がっており、ヨシ原が形成されている。その周辺や、河川敷の護岸際に、カワザンショウ科の貝類が多数生息している。ところが、これらの貝類は大型種でも殻高が7mm程度と小型であることから干潟観察などでも見過ごされがちであり、種同定さえもままならないことが多い。ここでは、2007年4月7日に、ヨシ原の周辺で発見できた4種を紹介する。


(写真:多留聖典)

 カワザンショウガイ Assiminia japonica は、多摩川河口干潟でもっとも個体数の多いカワザンショウであろう。ヨシ原の中や砂泥干潟の転石の周囲、さらには護岸の付け根にまで、多数がまさにざらざらと棲息している。比較的大型で殻高は約7mmほどになるが、殻頂部が削れて潰れたようになっている個体が多い。写真の個体は殻の横帯がはっきりしているが、模様が不明瞭で全体が褐色の個体も多い。


 ムシヤドリカワザンショウ近似種 Assiminia sp. cf. parasitologica は、殻の形状は上のカワザンショウガイに似ているが、より小型(殻高約4mm)で、殻が赤褐色で縫合下と殻底が黄色になる。ただ、表面に藻類がついていたり、摩耗していると他の種との区別がかなり困難になる。ヨシ原の中の漂着物の周辺で多く見られる。なお、本来のムシヤドリカワザンショウは日本海側〜北海道に分布し、本州太平洋岸のものは別種と考えられる(多々良・福田,準備中)


(写真:多留聖典)



(写真:多留聖典)

 クリイロカワザンショウ Angustassiminea castanea は、やや上の二種より細身で、軟体部も黒っぽい。殻が磨耗して、白っぽくなっていることが多い。殻高は約5mmほどになる。ヨシ原の中に多く見られ、ときどきヨシの茎にはい上がっていたり、流木や杭の隙間などに入り込んでいることもある。なお、東京湾の転石海岸などでは軟体部が白く、より小型の類似種が出現するので、多摩川河口干潟にも生息している可能性が高い。


 ヨシダカワザンショウ "Angustssiminea" yoshidayukioi は、クリイロカワザンショウに似ているが、軟体部が白っぽく、さらに殻の形がやや丸く、縫合が深い。裏返すと臍孔があり、そのまわりが薄い色になっている。殻高は約3mm。やはりヨシ原の中や漂着物の下などで見られる。なお、奄美大島以南にも、よく似た別種がおり、オイランカワザンショウという和名がつけられている。


(写真:多留聖典)



(写真:多留聖典)

 多摩川という都市河川の中で、ひっそりと、しかし確かに生きているこれらの小さな巻貝たち。一瞥しただけではその正体を知ることができないどころか、その存在に気づきさえしないかもしれない。しかし、一度でも視線をそこに注ぐ機会を持つと、その奥の深さに驚いてしまう。これから暖かくなるこの季節、ルーペを持って、小さな生き物の暮らしを覗いてみるのはいかがだろうか。ただし、生物保護の観点から、転石や漂着物はひっくり返したら必ず下の生物をつぶさないように元に戻すこと、また乱獲しないことは当然のことである。

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