養老川河口干潟調査 (踏査)

2006.5.27

 2006年5月27日(土)に、千葉県市原市の養老川河口調査の第1弾として、研究計画の策定をふまえた現地踏査を行いました。当センターのメンバーに加え、ゴカイ類の幼生を研究している東京海洋大学の学生の方や、博士研究として干潟の生物群集の評価法を研究している千葉県立衛生短期大学の方にも参加していただきました。

 

 当日はときおり小雨のぱらつく天候でしたが、終日、大雨や強風にたたられることはありませんでした。しかしながら、周囲が工業地帯であり、また火力発電所も近傍にあり、それらの排気と思われる臭気をかなり強く感じました。

 まずは、最も下流側の地点から河口に入りました。波紋を残した砂質の前浜干潟が広がっていました。左手が東京湾、右手が養老川の上流側です。奥に見える煙突は河口右岸の東京電力五井火力発電所です。左手奥に向かって右岸の護岸沿いに砂嘴が形成されており、大潮の干潮時には歩いて到達することができます。この周辺では、多毛類(ゴカイ類)が多く見られましたが、その反面二枚貝や巻貝は非常に少なく、空殻もほとんど見られませんでした。


 干潟面に点々とある黒いものは、スゴカイイソメの棲管の先端部です。棲管の数から推定すると、個体密度は非常に高いようです。スゴカイイソメの棲管は本来、先端部に二枚貝の貝殻を付着させています。ところが、この場所ではほとんど二枚貝の殻がないため、漂着した落葉・落枝などで棲管が形成されており、そのため黒っぽく見えます。


 河口から流路に入り、しばらく流心側に進むと、急に水温が1〜2度ほど上昇しました。写真に写っている、水面奥の泡の先は、火力発電所からの排水です。冷却水が温排水となって河口に排出されており、そのため水温が上昇しているようです。周辺には釣り人も多く見られ、魚類が蝟集しているのかもしれませんが、生物への明確な影響は判りませんでした。


 さらに上流へとさかのぼり、温排水の流入する付近へと至りました。このあたりに来ると、川の水温だけでなく、泥温もやや上昇しているのが感じられました。一方、最下流域では見られなかった二枚貝類がやや見られるようになり、アサリやマテガイが出現しました。また、今となっては東京湾ではほとんど見られなくなった、ウミニナの古い死殻が多く見られました。


 排水口を過ぎてさらに上流へ向かうと、急に水温や泥温は下がり、このあたりから底質は泥が多くなってきました。干潟面には、タマシキゴカイの糞塊が多く見られ、また小規模なタイドプールが形成されて、その中にエビジャコの仲間やミノウミウシの仲間などが見られました。


 左岸側に船溜まりがあり、そこにも砂が堆積して、ほとんどが干出していました。巨大な流木なども入り込んでおり、船舶の出入りは現在ほぼ停止しているようです。岸壁にはムラサキイガイやマガキの付着が見られ、干潟面にも随所に形成過程のカキ礁がありました。その周囲にできたタイドプールには、ユビナガスジエビやアベハゼなどがみられました。


 さらに上流へとすすみ、ガス管のかかる橋や国道16号付近になると、周囲にヨシ原が目立ちはじめ、小規模な後背湿地が形成されていました。干潟に見られるカニ類やハマトビムシの1種 、クリイロカワザンショウなどが多くなりました。一方、流路の付近では淡水の影響がかなり強い場所ながら、移入種のホンビノスガイが確認されました。


 国道16号の上流側の後背湿地はさらに泥質になり、非常にぬかるみの強い底質になっていました。ハサミシャコエビのマウンドも多く形成されていました。また、現在では稀少となったアイアシの群落が見られ、東京湾の後背湿地の特徴を残していると感じられました。しかしながら、この後背湿地は非常に狭い面積に限られ、またすぐ近で工事が行われており、さらなる環境的な変動が予測されることから、安泰であるとは感じられませんでした。


 国道16号沿いの公園には、埋め立てにより「生きながら葬られた幾千万の成貝稚貝」を供養する「はまぐりの碑」が建立されています。なぜか貝以外は供養されていない模様です。やはり、明確な経済資源以外への関心は薄いようです。

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