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北海道南部の河口・海岸(2)
(遊落部川・後尻利別川・尻別川)

2009.10.19

 


(写真:多留聖典)

 筆者は以前、2年弱、札幌に住んでいたが、訪れた場所はあまり多くない。そこで、学会終了後に道南地域の何カ所かの河口・海岸を巡ってみた。この地域は湿地帯を伴う河口域が少ないためか、環境省の全国干潟調査においてデータが空白になっている。
 まずは、遊楽部(ゆうらっぷ)川河口から。シシャモが遡上する清流として知られている(ちなみに、市販の加工食品の「ししゃも」の多くは別属の海産魚カラフトシシャモ)。河口から300mほどの下流部に降りてみたが、明らかに「川」であり、全く汽水域らしさはなく、さらに河口近くへと移動した。


 河口右岸は砂が堆積しているが開放的な海岸であった(右写真上)。汽水と思われる水域は非常に狭い。それでも転石をめくると、コツブムシの1種やナミノリソコエビの1種が現れたが、種数としては非常に乏しい。一方、左岸(右写真下)には一部護岸されているものの比較的広大な塩性湿地があり、その中に抽水植物に覆われたラグーンが広がっていた。護岸の上のヨシをかき分けると、ヨシダカワザンショウ近似種とともに、周囲には陸貝も多く見られた。


(写真:多留聖典)



(写真:多留聖典)

 遊楽部川を後にして、渡島半島を横断して日本海側に移動した。到着した後尻利別川も、河口においても水流が衰えず、また日本海側は干満差が小さいためか汽水域はたいへん短い。干潟と呼べる環境はほとんど形成されていないようであり、右岸の草むらを分けても現れたのはヒメモノアラガイの1種、キバサナギガイの1種、パツラマイマイ、ニホンケシガイなど、明らかに陸生の貝類ばかりであった。諦めて砂浜を探すと、転石下からハマダンゴムシが数個体現れたが、同所的にパツラマイマイが産出するという状態であった。


 後尻利別川の河口を後に、次の目的地である朱太川の河口を目指した。途中の海岸には、風力発電の風車が林立していた。やはり、西風を強く受ける地域なのだろう。海岸をさらに北上すると、やがて海岸は砂浜から転石の目立つ岩礁へと移り変わっていった。ところどころに陸水が注ぎ込んでいるようで、植生が繁茂している場所も見られた。


(写真:多留聖典)



(写真:多留聖典)

 ときおり海岸に降りて生物を探すも、潮間帯にはほとんど海生生物は見られなかった。ようやく到着した朱太川の河口も、後尻利別川ほどではないが汽水域は短い。それでも小規模な水たまりが形成され、産卵を終えたシロサケの死骸が目に付いた。
朱太川を後に東に進むと、尻別河口近くの道の駅に、「蘭越 貝の館」というミュージアムがある。ここの見学は翌日に回すこととして、岩内へと向かい食糧を確保して(都市部以外でこれを忘れると悲しい事態になる)、雷電温泉の宿に向かった。

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