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谷津干潟を歩いてみると・・・(2)

2007.6.10


(写真:多留聖典)

前回は、谷津干潟の全面を覆うアオサ類とそれを資源に大繁殖したホソウミニナについて触れた。しかし、谷津干潟にいる生物はアオサ類、ホソウミニナだけではない。アオサの上にはキョウジョシギやハマシギなどのシギ・チドリ類が飛来し、ときおり餌をついばんでいる様子がうかがえる。砂地や水路の中でゴカイ類やヤマトオサガニ、チゴガニ、そしてマハゼなどを捕食しているのは観察できるが、アオサの上では果たして、彼らは何を食べているのだろうか?それを探るため、アオサの中に何がいるのかを探ってみることにした。


 まず想像されたのは、普段これらの鳥類の捕食が観察され、三番瀬でも多く確認されたゴカイ類である。底泥中には、カワゴカイ類、コケゴカイ、アシナガゴカイなどが見いだされたが、アオサ類の中からはあまり多くを発見できなかった。ちらほらとカワゴカイ類 (Hediste )が目に付く程度である。これは地理的な違いというよりも、季節的な要因が大きく、高温によりさらに底質が貧酸素化すれば、底泥を脱出してアオサ中に進入してくる可能性が高い。


(写真:多留聖典)



(写真:多留聖典)

 アオサ類を篩に入れて揺すると、ホソウミニナに混ざってユビナガホンヤドカリ、マハゼの幼魚などが篩に残る。しかし、数でいえば、ホソウミニナの次に多く見られるのはヨコエビ類であった。何カ所かでアオサ類を採取し、篩でふるってみたところ、いずれの場所でも2種のヨコエビが発見できた。どちらの種も、体色は淡緑色で、体長は10mm程度である。
 まずはトゲオヨコエビ属の1種 Eogammarus possjeticus 。第3尾肢が長く、第1触角に副鞭がある。次種に比べて体高が高く、またアルコールで固定すると、数分で体全体が赤っぽく変色する。


 もう1種 は、ヒゲナガヨコエビ属の1種 Ampithoe sp.。第1節の底節板が前方に張り出し、また第3尾肢の先端に1対の鈎爪がある。体高は比較的低く、アルコールで固定しても、すぐには体色が赤くならない。
 谷津干潟のアオサ類の中から発見されたヨコエビはここにあげた2種のみで、ほぼ同程度の密度で混生していた。もう少し多様性に富んでいるかと思っていたのだが、意外な結果であった(もちろん、条件の異なるヨシ原や礫の下には、ヒメハマトビムシ属の1種やメリタヨコエビ属の1種など、別の種もいる)。しかしながら個体密度は高く、両種合わせて1m2に数百個体が生息している計算になる。


(写真:多留聖典)



(写真:多留聖典)

 谷津干潟には、数多くの野鳥が訪れる。その種数は年間で約100種を数えるといわれている。その一方、干潟の底生動物の種数は、環境省の全国干潟調査 (2007) で報告されているのは魚類を含め37種である。もちろん、ベントス調査は2004年6月の2日間のデータしかなく、また同じような時期に観察をしても、掲載されていない種が出現することから、全てを網羅していることはあり得ない。
 谷津干潟再生に対する議論が高まっているが、底生動物に関しては出現種という基礎的なデータもまだ満足に得られていない状態にある。なるべく多くの人が、干潟の生物に関心を抱くことで、「ほとんどのことが判っていない」ことを共通認識とすることが、まずは第一歩ではないだろうか。

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