小櫃川河口干潟の現状

干潟生物調査・同定研修会および追加サンプリング調査のフィールドに選んだ小櫃川河口干潟は、東京湾唯一の河口湿地を持ち、全国的に見ても有数の大規模な前浜干潟を有する、干潟の生物にとって重要な空間です。しかしながら、わずか数日の調査期間においても、様々な問題点を見いだすことができました。それらについて触れたいと思います。

 2005年4月の研修会では、全域でコノシロやビリンゴの死骸が多く見られました。そのときは繁殖による疲弊が原因かと考えていたのですが、4月中旬に大規模な青潮が発生したという情報を漁業者より得ました。この時期に繁殖や越冬による生理活性の変化で疲弊した生物が、貧酸素水塊や水温上昇などの環境の変化による影響を強く受けたものと推定されました。


 北部クリークと中央クリークの間に、浸透実験池があります。現在は、全域がカワウのコロニーになっていました。本来、樹上に営巣するはずのカワウが地上に直接営巣しています。その数にただただ圧倒されてしまいました。

 あまりに集中的な分布は、他の生物に影響を与える場合があります。今後の動向に注意が必要でしょう。


 中央クリークから前浜干潟にかけて、移入種のサキグロタマツメタの姿が頻繁に見受けられました。それと対応するように、サキグロタマツメタの捕食にあったと思われる、殻頂部に穴の開いたシオフキの殻が非常によく目に付きました。シオフキは殻が薄く、ツメタガイ類の攻撃に弱いと考えられます。

 アサリの稚貝に混入して放流されたサキグロタマツメタは、すでに宮城県の万石浦、福島県の松川浦などで大繁殖し、大きな漁業被害を出しています。本来分布しない種に対して、在来種は対抗手段を持たない場合が多いです。安易な放流や底質の移植は大きな影響があることを考えさせられました。


 前浜干潟の最上部に、イボキサゴの死殻ばかりが大量に漂着していました。いずれもかなり大型のサイズで、殻表にアオサが付着していました。本来、キサゴ類は殻表を付着生物から守るために、厚く滑らかな殻皮で殻を覆っています。しかし、何らかの原因によって殻皮の更新が停滞したときに、アオサの付着を受けて、本来の生息場所よりも上部に吹き寄せられて死滅したと思われます。


 2005年4月の研修会で、唯一カワザンショウガイが発見されたプールが、5月の時点では干出し、腐敗臭が漂っていました。発見できたカワザンショウガイを拾い集めてみましたが、ほぼ死滅していました(右下)。何らかの原因により、水の供給が絶たれたものと考えられます。特に生息場所が限られる種については、些細な変化が地域個体群の存続に大きな影響をもたらす可能性があります。


 カワセミ池周辺には、フトヘナタリの生息地があります。しかし、ちょうどフトヘナタリの分布する潮位のヨシ原が、漂着物で覆われており、その場所ではフトヘナタリは発見できませんでした。漂着物に覆われていない場所では何個体かを発見することができました(左下)。また、北部クリーク内のヨシ原には、かなり潮位の高い場所までホソウミニナが侵入しており、フトヘナタリの姿はほとんどありませんでした。

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 4月26日(火)
 
4月27日(水)
 
4月28日(木)

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5月22日(日)
 
5月23日(月)

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